アートアンドアーティスト
冨岡 雅寛    
カオスモス展'02/third 「CHAOSMOS Heterogeneous Reaction」
2002年11月29日(金)〜12月12(木) gallery CRADLE
米本実(左)、倉嶋正彦(中央)、原田淳(右)
カオスモスマシンで演奏する原田、ビデオカメラで近接撮影する倉嶋の映像が壁面に映される、米本の掲げた手には映像に反応する光センサーが、
冨岡雅寛の創る「カオスモスマシーン」は、動力を使わず、鑑賞者がマシーンを操作する事により、複雑な自然現象を体験させる。この場合、「複雑な自然現象」とは、近年、物理学の世界で注目されているカオス現象(初期のわずかな違いが、結果に大きな違いを生み出す状態)、非線形現象のことであり、気象現象などにみられる予測困難な現象の事である。また、水道の蛇口からポタポタ落ちる水滴の振る舞いも、カオス現象、非線形現象と言える。
具体的にはこのカオスモスマシーンは、粒子を含んだ液体の乱流を見せたり、連なる金属パイプが連鎖し、大きなウェッブを描いて動き、金属音を奏でる。
カオスモスマシーンは、大小あるが、いずれも人のスケールから離れることは無い。
多く金属と、黒く塗られたパーツで作られている。線形、円形、幾何形体の装置のようである。具象的に媚びないが、構造の面白さ、聴覚的な興味を惹き、誘発する複雑な自然現象はまさに「カオスモス」である。
原田淳(左)、米本実(中央)、倉嶋正彦(右)
カオスモスマシンで演奏する原田、ビデオカメラで近接撮影する倉嶋の映像が壁面に映される、米本の掲げた手には映像に反応する光センサーが、
さて、至る11月30日にこのカオスモスマシーンを使った非常に面白いパフォーマンスが行われた。冨岡が参加を呼びかけた電気音楽家(米本実)、パーカッショニスト・作曲家(原田淳)、ビデオアーティスト(倉嶋正彦)とカオスモスマシーンによるセッションである。
パーカッショニストが本来楽器ではないカオスモスマシーンを操作し、音と共に複雑な現象を発生させる。電気音楽家は、独自の手法でカオスモスマシンの各部分 にコンタクトマイクを取り付け音及び振動を拾わせる。光の明暗で音が変化する光センサーを会場の壁に投影されるビデオアーティストからの映像に反応させ、コントロールする。ビデオアーティストのカメラワークは、カオスモスマシーン+複雑な自然現象+パフォーマンスを縦横無尽に映し出し拡大投影する。パーカッショニストによって最大限に活かされたカオスモスマシーンの生み出す複雑な自然現象の拡大投影は、シュールであり、迫力である。
ChaosmosTurbulent Flow Machine13
会場に響く音は「複雑なリズムと洗練されたノイズ」である。音響的に増幅された現象―カオスモスが観客の聴覚を揺さぶり視覚を鋭くする。
打音やカメラの捕らえる光がアナログエレクトロニクスの仕掛けを通して変質し各パフォーマーにフィードバックされる。
それぞれのパフォーマーが、即興の判断で自らの動きをコントロールする。このパフォーマーの感覚的に計算された調整により、カオスモスマシーンの生み出す複雑な自然現象の 動き、音(ノイズ)、映像(光)が再び変化する。
このセッションは、パフォーマーたちの長けたバランス感覚により、約40分弱のライブを成功させることができた。そして、このセッションもまた、Heterogeneous Reaction(不均一系の反応)を唱ったこの展覧会に相応しい「カオスモス」の奏でる自然現象であった。
CHAOSMOS Heterogeneous Reaction展会場
造形作家が追求していったこの「カオスモス」という複雑な自然現象、流れ、振動、波紋等 、の要素がフォーマンスを通して、観客に伝わったのではないかと思う。造形物の可能性の拡大。作家の感性の追求が観客に未知の感性を提示するのだ。

カオスモス
    =94年より冨岡雅寛が展開しているシリーズ
カオス等の非線形現象を生み出す観客対話型の装置カオスモスマシンによって観客と複雑な自然現象との対話をリアルタイムに可能にする。
広義のカオス理論、流体力学、非線形物理学にインスパイアされた作品を制作している。
撮影:飯村昭彦 冨岡雅寛